0歳から小学校入学前の乳幼児を対象にしたお寺が運営する保育園で、石岡市の旧市街、照光寺の境内に、本堂や鐘楼、客殿、そして大きなケヤキ、イチョウ、それから墓地とともに旧園舎はありました。築45年、鉄骨造2階建ての旧園舎は手狭で老朽化が進んでおり、かつ補強部材によって有効面積がさらに減ってしまうため、必要な耐震補強工事をすることもできない状況でした。歴史ある境内の雰囲気は仏教教育には最適な一方、管理面から囲われた園庭は狭く駐車場の確保も難しいため、近隣に土地を求めて移転・新築することになりました。敷地は多少離れてしまいますが、総ケヤキづくりの本堂やヒノキづくりの客殿など、伝統的な木造建築物との関係性が維持でき、埋蔵文化財の多い地域において基礎を小さくできる木造園舎が望まれました。
新たな敷地は境内から100メートルほど、石岡小学校や市民プールに隣接する角地で、以前は酒蔵のあった場所です。南側道路のはす向かいには、江戸後期に府中藩の門としてつくられ、小学校の校門として使われてきた「陣屋門」が移築・保存されているなど、まちの景観をかたちづくる重要な場所と思われました。そこで、まち並みに配慮した広場のようなあり方、まちの歴史とつながるために、木造建築物に使われてきた伝統要素を利用することをキーワードに計画を行うことにしました。広場のようなあり方とは、フェンスで仕切られていてもまちに視線の抜けを提供できるような、開かれたたたずまいを表すことで、これは防犯的な意味合いでの死角をつくらないこととも関係しています。伝統要素の利用とは、お寺が建物や境内の雰囲気として体現してきた素材や技術をそのまま使うのではなく、構造的な特質や木造らしさを現代の視点から再構成して表現することです。高価な材をふんだんに使って技術の粋を凝らした建物というよりは、近くの山で手に入る材と現代の技術でつくれる方法を考えることした。
高橋建築構造設計室と共同設計 構造:KMC(蒲池健) 写真:中山保寛